五郎:貧乏のチャンピオンは乞食かな?
ソムチャイ:そうとも言えないです。2年ほど前でしたか、乞食集団の特集をテレビ
で流しました。結構大勢の人が見て、一時話題になっていましたですね。ヤラ
セがあったかもしれませんが・・・。
五郎:どんな番組?
ソムチャイ:例えば・・・、出稼ぎ乞食の場合は地方からバンコクに出てきて、半年
くらい稼いで帰ると言うケース。顔を潰したり、足が折れているように偽装・変
装して乞食をする。田舎に行って見ると、立派な家で乗用車もあって・・・・なん
て。歩けないはずの乞食が人気のないところまで来ると、スタスタ歩き出した
た・・・というようなストーリーだったです。
五郎:そんな人がいても、おかしくはないよな。数が数だから。どの位いるのかな。
ソムチャイ:知りません。数えた人はいないと思いますけど・・・。
五郎:シーロム通りのセントラルデパート前で長く乞食している人いるね。おなじみ
さん、って言う感じで。サキソホン吹いている人、長いね。カラオケで歌いなが
ら乞食している人も長いよな・・・。トリオで合唱、ていうのもあった。
ソムチャイ:今では、ストリートミュージシャンて言うらしいですよ。
五郎:そうか!?でも、それじゃストリートミュージシャンが怒るかもしれないぞ。
だけどね、これが東京だったらダメだよ。道路で椅子に座って、楽器ならして
乞食していること自体を社会が受け入れない。警察に通報する人もいれば、
ご丁寧にポリスが出てきて排除したりする。まあ、仮に東京で3日間道路に座
っていることができたとしても、お金を恵む人はいないね。3日目には死んでる
よその「お乞食さん」。タイはみんなが受け入れているんだ。乞食を。「そこに
座って乞食をしていて良いんだよ」って。一般民衆にも、社会にも一呼吸おく気
持ちの余裕がある。
ソムチャイ:それって、褒めてるんですか?
五郎:いや、褒めてるつもりはない。日本との違いを言ってるんだ。日本人一人ひ
とりは、タイの人よりお金を持っているかもしれないけど、心は貧しくゆとりがな
い。松戸市というところで、団地に住んでいた老人が孤独死した。テレビで取り
上げて社会問題になったけど、一時の話題で終わった。2005年だったかな。
政治や行政の貧困を言う人もいるけれど、そうなのかな・・・、と思うね。日本
人の生活の仕方や、考え方、行き方に問題ありじゃないかな。
1960年代の「高度成長」期に日本はムラの共同体が失われた、その後新し
い地域・社会コミュニティーがないまま走っている。親子・兄弟で争い事は絶え
間なくあるけど、親子・兄弟が仲良く助け合って何かしているなんて、日本では
「美談」だよ。感動ものだもんね。
ソムチャイ:五郎さんのいうのも分かるような気はしますけど・・・、
タイは未だ農村が基盤で、社会も経済も遅れていますから。これからは分かり
ませんけど、とりあえず今は「親戚一同」とか「地域のみんなで」と言う考え方
はありますね。
五郎:日本ではね、職を失うとすごく惨めだ。自殺する人も多い。助け舟がない。老
後も心配・・・、ビクビク暮らしている。タイは違うよね。ともかく、何とかなってい
る・・・。
ソムチャイ:タイだって、きれいごとではないです。ただ、仏教で言う助け合いの心
見たいなものはベースにあるかもしれないです。お年寄りや子供を大事にする
気持ちは未だ失われていない気はします。
五郎:何万人いるか知れないけど、大勢の乞食が乞食で食っていけるんだから、タ
イの社会は人を生かす社会だよ。日本は人間が生きる社会で「大事な何か」
を失っている。